どうすればいいの?
ここのところ、父と同じ世代の同僚と組んで仕事をすることが多い。
彼は、どこか人を寄せ付けないところがあり、自ら孤独を選んでいるようにさえ見える。そして、彼の言葉は常にストレートできつい。小生意気な若い社員には、ことさらきつい態度を見せる。私はずっと思っていた。“やっぱり年をとると頑固になるんだな。年上なんだから若い子なんて相手にしなければいいのに…。”と。
私は今の職場では、“いいキャラしてるよね”と言われる存在で、仕事そのものはそこそこやるが、イマイチ気合が抜けてて、どこかおとぼけ、と思われている。期待はされてないが、おもしろがられている。まさに狙い通りのポジションを得られて、私は今とても居心地がいいのである。
そんな私だが、彼と組んで仕事をする時は、ちょっぴり緊張する。
70近い彼に重いものをもたせるのはどうだろうか、とか、ずっと立ちっぱなしの仕事は辛いだろうから、受付を変わったほうがいいだろうかとか、私らしくないことを考えるからだ。
そんな時彼は、「ん?大丈夫だよ」といい、決して甘えようとはしない。年齢を言い訳にするのを嫌がるのである。プライドの高い人だ。だが、プライドのかけらもない私は、彼の前では甘えるようになってしまった。「あ〜、休憩まで持たない。トイレ行ってもいい?」と言ってみたり、彼が受け付け担当で座っている時は、「立ちっぱなしで疲れちゃったから、座っちゃおう」などといいながら、彼の横にちゃっかり座ったりしてみる。そういうことをすると、彼はちょっぴり嬉しそうな顔を見せてくれるのだ。そして、私がそうすることで彼も私に甘えを見せてくれたらという思いもあった。
先日、2人でシフト表をみていると、海外旅行中の同僚のお土産は何か?という話になった。旅行をしている同僚は、毎月旅行の為に休みをとるような優雅な生活を送っている。食べることが大好きな彼女のことを「また大きくなって帰ってくるんだろう」などといいながら私達は笑った。
すると、その後、彼がボソッと私に言ったのだ。「旅行の為にお休みを取るなんていいよなぁ。私は女房子供を食わせなくちゃならないからさ」と。私はてっきり、定年を向かえ、趣味で働いているのだとばかり思っていたので、「そんなこと言っちゃって〜、なんかお金のかかる趣味でもやってるんじゃないの?」とからかってみたのである。
そんな話から、ちょっぴり話は盛り上がって、私の年の話になった。私が生まれ年を言うと、「あ、じゃぁうちの子供と同じ年だ」と言うではないか。私はびっくりして「え、そうなの!?へぇ〜。でも、私と違ってもう立派に巣立って孫っちまでいるんだろうなぁ」と、それが当たり前だというように彼に言った。すると彼は「う〜ん、違うのは違うんだけど、うちのは障害者なんだよ」と言ったのである。
私は予想外の展開に動揺してしまった。そして、それを隠さなくちゃと思いつつ、逆に「へ〜、どんな障害を持ってるの?」なんてすごい質問をさらりとしてしまったのである。「脳腫瘍でね、中学生の時に脳にできた腫瘍をとったんだけど、難しい手術でね、脳に傷がついちゃったんだよ。その時は随分入院したけど、この秋に手術した時は数週間で退院できたんだけどさ」と私に言った。そしてさらに「そんなことが起きるのは、テレビの中だけの話かと思ってたのにさ。現実に起こっちゃうんだもんな」と遠い目をしてつぶやいたのである。
私は、その時何も言えなかった。
どんな言葉をかけても薄っぺらく空々しく聞こえてしまうと思ったからだ。
だが、かと言って黙っていることが良いこととも思えない。
一体その時どんな態度をとるのが正解だったというのだろうか。
結局彼の「さ、もう少しで終わりだから、ちゃっちゃと片付けちゃおう」という言葉で私達は立ち上がってそれぞれの仕事に入った。
私は、その話を聞いて、彼の気持ちが少しだけ理解できたように思う。
私や、その他の同僚、その誰と比較しても彼が一番必死になって仕事に向き合っているのだと。皆健康で、その家族達も健康で、なんらかの娯楽や趣味の為に働いているようなものだ。彼のように背負っているものはない。そんな気楽な若輩者に、わかったようなセリフを言われるのはたまらないのだろう。だが、かといって背くわけにはいかない。彼は仕事を選べないことをよく知っているからだ。
事情を知らない皆は、ただ単に“扱いづらいじいさんだ”と思っている。
実際私もこの話を聞くまでそう思っていた。“ったくなんて頑固じじいなんだ”と。だが、頑固になってしまう理由がわかった私は、これからどんな態度で彼に接するべきなのか…。
おそらく彼は、私が事情を知ったからと言って急に態度を変えるのを喜ばないだろう。だから、私はこれまで通り、彼の前ではだらけて甘えて、のん気な行かず後家として接していこうと思う。そうすることで、彼がこれからも私に、少しでも抱えているものを吐き出してくれたらと思うからである。
聞くことしかできない無力な私であるが…。
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Posted by late_bloomer at 08:57│
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エッセイ
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切ないね。 今までどうり接してあげてね
人の心を大切に思う 貴方の心が美しいです。
おじさん思わず我慢できなかった本音がこぼれたのかなぁ…
むーいろんな感情が沸き上がるけど言葉にしづらい
とりあえずおじさんカッコいいぞ
(・ω・)
ジャンキィーさんへ
今まで通りが一番ですよね。。
ときさんへ
多分、ふっと本音が出ちゃったんだろうと思います。
ほんと、なんて言ったらいいのか、頭の中真っ白になっちゃって…。
言葉をかけられなかった分、私が手伝えることがあったら率先して動こうと思います。小さなことで。。
そばで、見守ってあげる事が大切ですよね。
何かを望んでるわけでもないでしょう。
人の心は、難しい
貴方に話して楽に成る事も有るのでしょうから
そばで、微笑む女性か〜 なんかいいね。
私もがんばらなきゃ 人はそれぞれ傷や荷物
を担いで、生きている。 長くなれば、なおさら
ですね。 私は荷物を少し降ろせたかな?
PS おじさんが、貴方に話したと言う事は、
認められたんでしょね。 箱女も がんばれ!!
あつなら、今までどおりだな。
じいさんが話し始めたら、一字一句漏らさないくらい必死で聞けばいいと思う。
どんなリアクションもいらないと思う。
話をするじいさんを受け入れるの。じいさん!ウエルカム♪って(笑)
あつこちゃんへ
そうか、そうだね。
一生懸命聞く。ただ受け入れる。
その後のリアクションなんて何もいらない。。
やるな、あつこ。
うちも知的面ではあるけれど障害児がいるので、おじさんの姿は将来の我が家の姿かも?と思いました。
人それぞれ抱えているものは多種多様で、特別な目で見ないでいてくれると嬉しいかなあ。
人間誰でも、自分の身にふりかかってくるまでは病気や障害は縁が無いと思うし想像しがたいもの。
yukikoさんは経験から人のことを思いやれるのでしょうね・・。
おじさんがポロッと家庭の事情を漏らしたのは、そんなyukikoさんの内面の思いやりを感じとったのかも。
合コン話ドギマギしながら読んでましたよ〜♪すっかり「○○ちゃんのおばちゃん」となって十数年ですが、恋愛っていいな〜vvと思っちゃいました(^^)
こういう重すぎる家庭の事情っていうのは、あんまり話したくない反面、誰かに話を聞いてもらいたいと思っているところがあると思います。そして話を聞いてもらいたいと思っている相手は誰でもいいわけではなく、やっぱりココロを許していて、信頼のおける人じゃないと話せないと思いますよ。yukikoさんはおっちゃんにそう思わせるモノを持っているのだと思います。何かをして欲しいわけじゃない、ただ聞いてくれるだけで心の重荷がほんの少し軽くなる、そういう事ってあるんじゃないでしょうか。弱音を吐きたいけど吐けない、そういうおっちゃんの気持ちを少しでも受けとめることができるのがyukikoさんだった、ということだと思います。これからも態度は変えずに、さりげなく話を聞いてあげれば良いのではないでしょうか。きっとyukikoさんが苦しくなったとき、同じように話を聞いてくれるのではないかと思います。
お久しぶりです。
どう接してもおじさんの背負っているものが
変わるわけではないけれど・・・。
それでも、話をきいてくれる誰かがいるだけでも、
おじさんにとってはずいぶん違うのではないかしら
と思いました。
重い事情って、たまに誰かに話したくなっちゃいますよね。
でも、世の中にはなんでもかんでも否定したがったり、
人の気持ち考えられずに面白がったりする人も多いのが現実で、
多分おじさんはその事実で今までいろんな思いしてるだろうから、
話すべき人とそうでない人の区別は自然と付いているでしょうね。
おじさんも同情して欲しいとかそういうんじゃなくて、
ついポロっと出てしまったのかな。
それはごく自然に、「この子なら大丈夫」って思えたんでしょうね。
yukikoさんの薄っぺらくないところがおじさんにはわかったんだ。
きっとyukikoさんの考えてる通りの接し方が正解なんでしょうね。
yukikoさんは『聞くことができる』んですよね。人徳ですね☆
かつみさんへ
特別な目でみない…とても大切なことですね。。
前の会社では、障害を持った方が普通に一緒に働いていました。
そこで学んだことも大きかったと思っています。
合コン話、あのレポート書くの結構大変でした^^
読み返してみると恥ずかしい〜!!
素敵な恋愛したいです☆
マロさんへ
>きっとyukikoさんが苦しくなったとき、同じように話を聞いてくれるのではないかと思います。
そうかもしれません。私が何かあった時、ぶっきらぼうではあるものの、一番心配してくれるのは、じーさんじゃないかって思いました。すごく深いところで受け止めてくれる人だろうと思います。
そして私も、そういう人でありたい、と思いました。
happy_horseさんへ
お久しぶりです☆
そうですね。。私も“話したって仕方がないんだ”と思いつつ、話してしまいたいこと、ありますもん。そんな時、聞いてくれる人がそばにいると本当に嬉しいものですよね。
朱花ちゃんへ
私が今迄彼に接してきた態度で、彼が私に話してくれたとしたら、これからも変わらず、彼に甘えつつ、いろいろな話をしていけたらって思います。
人生の大先輩、きっとこれからもたくさん私に考えさせてくれる事を話してくれることと思います。聞ける人間でありたい。。
はじめまして。以前から時々寄らせてもらっていました。
どこか、あなたとわたしの似たところを感じながら、そして違いをより感じながら。
同じなのは家族構成、そして自分が一番親に迷惑かけていないつもりだったこと。そしてこの記事。わたしは小さい人たちの精神科医っです。わたしの師匠はT大出身、そこでバリバリ働いて、研究も臨床もして厚労省に入り、BSEの研究班、自閉症児の都内の施設・作業所を全て見学した、というとてつもないエネルギーの持ち主。
あるとき、「わたしの子供は重度心身障害児です」とあっさり言われ、彼は
その子が誕生したときも少しも動揺しなかったと思うのです。
さらに書くことへの執念?捉われにしておきましょう。
そしてあなたと違うのはわたしは甘やかされ過ぎていること、家族に嘘を吐くこと、ナルシストであること、同性の友人がいないこと 笑 かしら。
初めから長々と申しわけございません。
anisさんへ
初めまして、コメントありがとうございます☆
師匠、カッコイイですね。
その子が幸せな人生を送れるよう、神様が師匠のところに授けてくれたのでは?と思いました。
私もナルシストで、そして、あんまり同性の友人いません^^
また是非遊びに来てくださいね!