2005年11月22日

魅惑の玉遊び

私は、パチンコや競馬などのギャンブルはやらない。
なぜなら勝つと思えないからだ。

パチンコ屋さんに足しげく通っている人の話を聞くと、大抵が「今あるお金が何倍にもなる」と思っていたり、「今月の給料日まで、もうもたないから勝負するしかない」と思ったり、どうも頭の中で“勝ってお金を手にしている自分”を想像するらしいのだ。そこが私と違う。私はどうしても「このお金があったらアレ買えるのに」とか「コレも食べられるのに」など、今あるお金をいかに有効に使うかを先に考え、パチンコをやった時の自分は“負けてお金が空っぽになった自分”しか想像できないのである。そんな弱気で奴らに臨んだところで勝てるわけがない。

だが、そんな私も一時期パチンコ屋さんへ通いつめたことがある。

合コンで知り合った彼は、とても遊び上手だった。
車ごとフェリーに乗って東京湾を渡り、葉山御用邸のあたりをドライブしたり、彼のお手製のお弁当を持って花火を見に行ったり、台風の日には、突然会社に迎えに来てくれたり。彼といるといつも楽しかった。

だが、そんな甘い日々はそう長くは続かない。
私達の関係は、だんだん慣れ親しんだ関係へと移行していった。
もちろん、それが悪いというわけではない。だが、その頃になって、初めて彼が無類のパチンコ好きだということがわかったのだ。だが、私の気持ちはすぐ萎えるはずもなく、とにかくパチンコだけはやめて欲しいと訴えるしかなかった。

なぜ、私が、彼がパチンコ屋さんへ行くのを嫌がったかと言うと、まず、当時のパチンコ屋さん独特の雰囲気が嫌いで、自分の彼がそういうところに出入りする姿を想像するのがいやだった。そして、なんといっても時間にルーズになる。約束した時間になっても現れず「今いいとこだから」という理由で私は何度も待たされるようになった。それが本当に嫌だった。そう訴える私に「一度やってみると、その気持ちわかってもらえると思うんだけどなぁ」と彼が言ったのが発端で、いつしか私もパチンコ屋さんへ同行することになってしまった。

彼が好きなパチンコ屋さんには、超慣れたおっさんやおばさんばかりがいるように見えた。一生懸命お洒落している自分がなんとなく場違いな感じがした。
当時のパチンコ屋さんは、それはそれはタバコの煙がひどく、お店に入っただけで息ができなくなりそうだった。顔をゆがめている私を見て彼は、始める前に一言だけ言った。「いい?絶対これからも自分のお金ではやるな。一人でお店に来るようにはなるな」と。そしていつも彼は私の隣に座り、私の台へも彼が常にお金を入れて遊ばせてくれた。

不思議なもので、慣れてくると座っているのがだんだん苦痛でなくなってくる。
気が付くと、開店から閉店までいた、なんてことがしょっちゅうあった。
おっさん達にまじって、開店前に並んだことすらある。
パチンコ台の前に座っていると、無の境地に入る。目は一生懸命銀色の玉を追っているものの、頭の中は空っぽだった。それがなんとなく心地よかった。

最初の頃、私は彼が幾ら使い幾ら負けたのか、はたまた勝ったのか、その辺の事情をよくわかっていなかったが、慣れてくると、彼がお財布から出す金額が大きいことに気が付いた。そして、ひどい時は彼は途中で銀行へ行き、お金を降ろしてくる。それでも足りないと「今幾ら持ってる?」と私に聞くようになった。時々私がいくらか出す時があったが、その金額分は後でちゃんと返してくれた。それでも私は心の中でなんとなく思った。“パチンコはやっぱり良くない”と。

だが、負けた時は質素に二人でカップラーメンをすすり、勝った時は豪勢に食事する。そんな時間の共有も若い二人には楽しかった。

ある日、私の台がまるで壊れてしまったかのように、後から後から玉が溢れ出して止まらなくなった。もう籠はいっぱいだ。店員さんが急いで籠を持ってきてくれた。籠を積み上げても、通路がふさがるくらいいっぱいになってしまった。店員さんがまたやって来て、「もう通路ふさがっちゃうんで、今ある分を精算してもいいですか?」と言った。私は「ええ、どうぞ。お願いします」と得意げに言った。“私、今このお店で一番出してるんじゃない?なんて皆羨ましそうな顔してるの?今日のクィーンは私で決まりね”と心の中で高笑いしていた。

やっと玉が出なくなり、彼と一緒に換金しに行った。
なんと30万円くらいになったのだ。今までで一番の稼ぎだ。
私の頭の中は、もう何にそのお金を使うかでいっぱいだった。
“とりあえず、もうすぐ車検だからそれに使って、あとは・・・・。”
なんて、いろいろリストアップする時間はそれはそれは幸せだった。

だが、待てよ。出資したのは彼だ。私は一円も出していない。
さすがに30万全部貰うわけにはいかないだろう。そう思い、私は彼に半分の15万円を渡すことに決めた。二人で山分けだ!

30万を手にしていた彼に、私は100万ドルの笑顔で「半分ずつにしようね♪」と言った。すると、今まで一度も怒ったことのなかった彼が、私をものすごくさげすむような目で見るではないか。どうした、一体何があったんだ?

やがて、彼は静かに切り出した。
「俺はこれまでずっとお前の分も出してきた。いつも勝ってたわけじゃない。だけど負けた時、おまえに請求したことがあったか?勝った時はそのお金で、二人でおいしいもの食べたり、遊びに行ったり二人で使ったよな」と。
・・・そう、彼の頭の中では“俺の30万円”だったのだ。。

二人の間に気まずい空気が流れた。
“確かに私は一度も痛い思いをしていない。バカ勝ちした時だけ山分けなんてずるいか。でも30万もあるんだから少しくらいくれたっていいじゃない、ねぇ”
そんなことを考えながら、頭の中はフル稼動していた。

そして私は「ごめんね。もうすぐ車検だから、その分のお金が出たって思って先走っちゃったの。」としおらしいことを言った。すると、彼はしばらく考えた後、「これで車検の足しにして」と言い、私に10万円渡してくれたのだ。
やった!私は心の中でガッツポーズをしていた。

やがて、二人の間に亀裂が生じ、別れがやってきた。
別れと共に楽しいパチンコライフともおさらばになった。
彼と別れてから、私は一度もパチンコ屋さんへ行っていない。
私は一人では勝てそうにないからだ。それに、せっかくあの時彼が「自分のお金でやるな」と言ってくれたのは、私がはまらないようにとの配慮だったのだろうと思う。それを無にしたくない気持ちもあった。

今でもふっとあの時のやり取りを思い出す。
私にとっての彼は“優しい人”のままだが、彼にとっての私はいつまでたっても“がめつい女”なのだろうかと。そう思うと、なんともやりきれない気持ちになる。

だが、今でも私はがめついままだ。仕方ない。

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母性と父性 性犯罪には、性暴力にまつわる神話があるように、幼い頃から家庭という密室内で起る親からの虐待で被害をこうむった子どもが大人になっても根深くもち続ける "母への執拗な憎しみ" は、「母性神話」というものが深く私たちの社会の中に刷りこまれていると....
母性神話ー憎しみの浄化【月白銀花 】at 2005年11月22日 23:48
この記事へのコメント
こんにちは。始めまして。
最近、ちょこちょこ覗かせてもらっています。
今日は元気そうですね!安心しました!たくさん食べて。たくさん寝て。今日もお日様を浴びて過ごしましょっ☆私も少し前からゆっきーさんと同じ病気と格闘中です。お互い無理せず「適当」に!
また時間を見つけて覗かせていただきますね。
Posted by すぽっちん at 2005年11月22日 11:32
すぽっちんさんへ
初めまして、コメントありがとうございます☆
ここでぶちまけさせていただいたおかげで、すっかり元気になりました。
たくさん寝て、お日様を浴びて、たくさん食べて。大事ですよね。
「適当」とか「いい加減」にやって行きたいと思ってます。
また、是非遊びに来てくださいね☆
Posted by yukiko at 2005年11月22日 12:19
元気になったようでよかったです。。
私も昔パチンコ好きな人と付き合ったことがありますが、ほんと!「今いいところだから遅れる」ありがちなシチュエーションです。。
遅れた分買ったお金を私に使うので、彼にはまったく意味のない行動のように思えたんですが、違うんですかね?笑
Posted by mari at 2005年11月22日 14:38
mariさんへ
おかげさまで、元気になりました。ありがとう、mariさん。。
遅れた分をmariさんに使うってことは、勝ったっていうこと。
彼には、何よりそれが嬉しかったんだと思います。
リーチがかかって、やっと出たあの瞬間、やっぱり気持ちいいんですよね〜。と、気持ちはわかるようになりましたが、やはり約束を守れないようではXです★
Posted by yukiko at 2005年11月22日 15:14
☆あ、9位なんですね〜。。9、は結構好きな数字です〜☆
今の家電の数字にも入っているしねっ^^v。。永久のキュー、で普遍的。今日も元気でありがとさんキュー、で円満的。
。。さむすぎる?うぅ。。でもね、実際に、むっかしから言っていたことなのだ〜!よろしければ・・・忘れ・・て・・。
パチンコかぁ。。。むっかし(出た、2回目)のイメージがやはり強いですね〜。タバコの煙が充満していて。。って。。
今はパチンコ店にも禁煙席とかってあるのだろうか?
それにしても30万円ってのはオドロイたっ!!
ひっとしてギャンブラーとしての資質があった、ってこと?
。。「そしてyukikoは今もなお続けている、人生という名のギャンブルを。。」。。なぁ〜んてね^^。
あれぇ?どなたかのスピーチだったような。。。
「がめつい女」というよりは「よこどり女」と言えましょう、そのときのyukikoワンったらぁ〜もう〜ガブリだっ☆!☆


Posted by 雪国ショコラ at 2005年11月22日 18:57
雪国ショコラさんへ
そうそう“9”って日本ではあまりいいイメージないけど、逆に“9”がいいっていう国もあるし。だけど永久に9位っていうのもどうかと・・。
今のパチンコ屋さんは随分洗練されてるらしいです。カップル席だのもちろん禁煙席だの、また、臭い消しシャワーがついてるだの、いろいろあるらしい・・。
>「そしてyukikoは今もなお続けている、人生という名のギャンブをを。。」
なかなか素敵ですが、そろそろ安定を求めたいと思っております。
やっだ〜っ!「よこどり女」こっちの方がタチ悪げ。。
でも、確かにあれは横取りだったかもしれん・・。
Posted by yukiko at 2005年11月22日 19:07
こんばんわ!
お元気そうで何より〜
今日は、利用者さんの案内でセンターから一番遠い散歩道を歩きました。
やっぱり手を引いて何とか歩けました。
これじゃどっちが世話焼いてるんだか?!
「パチンコ」ネタか〜来たな!
今別居中のパートナーもパチンコ好きでした。
パチンコ屋の店員さんに、子供が出来たら絶対連れてこないように!言われました。
「無」の境地分かります。
無心になれますよね。
けど金銭感覚が崩れるしー
何よりパチンコで財産成したって人いないからな〜
それなのに、パチンコ店は増えるってー儲かるってことでしょ?
気づけよー馬鹿!と思います。
私は、とっくに足洗いました(笑)
でも君の心理分析素晴らしい〜
どうやら私も君のような思考回路が働くらしい。
金の切れ目が縁の切れ目って言うし。
私もどうやらそんな所らしい〜
今夜も滋賀は、寒い!
Posted by ふぁんふぁん at 2005年11月22日 19:53
ふぁんふぁんさんへ
こんばんは。おかげさまですっかり元気になりました☆
お、最後まで歩けましたか。時には世話になったりいいですよね。。

そう、パチンコの一番悪い例が子供の問題です。
どうして?って思うような事故たくさんありましたよね。
最近は夜遅い居酒屋さんでも子供を見かけるようになりましたが、何かがおかしいと思ってしまいます。。

滋賀県寒いですか、こちらは日中はポカポカ陽気で暖かかったです。
さすがに夜は寒いです〜!
Posted by yukiko at 2005年11月22日 21:04
あはは〜歩けたよ!
いつまで持つのか?この左足だけどね。

子供が夜9時以降に街にいること事態がやっぱりおかしいよね。
これは大人の責任だと思う。
我が家は、柔道の練習日以外は、中学生まで21時就寝。
コンビニ出入り禁止。
小遣いは、学年でー高校生でようやく1000円から始まる。などなど〜

まあ今となっちゃ笑えるけど。
この子育てのポリシーは正しかった!と長男がヤンキーしていても思います。(見かけだけだけどね)

滋賀は本当に寒い!
明日もバラエテイに富んだ話題提供、楽しみにしています。
筋肉痛で寝込んでいるかも〜
Posted by ふぁんふぁん at 2005年11月22日 21:26
ふぁんふぁんさんへ
そんなに大きなお子さんがいらっしゃるんですか!?すごい☆
もうものすごーく昔の話だけれど、私もずっと21時就寝でした。
お小遣いも本当にちょっとだけ。
だから、今の高校生とか大変そうだなって思います。
お金がないと高校生やっていけないような気がしちゃって・・。
携帯も何もない時代に子供で逆に良かったなって思います。

いつになるかわかりませんが、私に子供ができたら、子供のうちは子供らしい生活をさせたいと思います。大人になったらいくらだって何だってできるんだもん。子供のうちぐらい子供でいさせてあげたいです。

筋肉痛、明日出るかなぁ〜^^
Posted by yukiko at 2005年11月22日 21:49
こんばんは!いろいろ読ませ頂きました。大変でしたね なんの手助けになりませんが
元気を出して一歩一歩懸命に頑張って下さい。
今の大事が明日の糧になりますように心から願っております。
賭け事については、やらないですむならやらない方がいいと思います。(自分の場合食べるので精一杯ですからね。テヘヘ…)
Posted by jun at 2005年11月22日 21:51
junさんへ
こんばんは!
>今の大事が明日の糧になりますように
素敵な言葉をありがとうございます。
いろいろな事に惑わされず、私のペースでやっていこうと思っています。
そうですよね、賭け事はやはり余裕のある人がやるものだと私も思います。
(私の場合、無職ですからね、ウフフ…)
Posted by yukiko at 2005年11月22日 22:02
コメントありがとうございます。
かなり読み応えのあるブログですね。
すごいっ。。
Posted by at 2005年11月22日 22:39
巧さんへ
こちらこそコメントバックありがとうございます!
最初の頃はもっとコンパクトにまとめていたのですが、
だんだん文章が長くなってきちゃいました・・。
是非良かったらまた遊びに来てくださいね!
Posted by yukiko at 2005年11月22日 22:44
そうだよね!
その感覚凄く大切だと思う。
子供の内は、子供でええと。
大人になったらいくらでも自由がある!
その自由とは何ぞや?

お金も甲斐性もある親を持つと子供は不幸です。

筋肉痛やろ〜
明日は出ないんだー歳だから。
2・3日はかかる見込み。
最近泳いで無いし。
Posted by ふぁんふぁん at 2005年11月22日 23:03
ふぁんふぁんさんへ
そうですよ、子供のうちは子供でいいのに。
自由こそ難しいんだから、ねぇ。。

お金も甲斐性もある親だと子供は幸せになると思っていたけど、
お金ばかり与えすぎになってしまうのでしょうか・・これも難しいですね。

泳ぐのっていくら温水プールでも冬になると足が向きませんよね^^
Posted by yukiko at 2005年11月22日 23:58