何気ない言葉
私は記憶力は殆ど無いが、幸い暗記力はそこそこあった。だから、試験勉強というと、試験直前に片っ端から覚えられるだけ覚えていく。そして、試験当日に解答用紙に書き終えると、その暗記したものをスコーンとどこかへ追いやる。勉強というより作業という感じだった。
だが、高校の世界史の試験で、一度すごく楽しい試験勉強をしたことがある。試験より数日前に問題用紙が配られたのだ。問題用紙には“なぜXX戦争が起こったか？”など、すべて論文形式で回答するようになっていた。最初に問題がわかっているのなら、勉強しない手はない。点数が稼げるところは稼いでおこうという気持ちもあったが、何より自分の言葉で回答を考えるのが楽しかった。私は没頭した。教科書を読み、関係資料を見ては自分の言葉で端的にまとめる。あんなに真剣に“勉強”をしたのは初めてだった。そして私は、数ある問題すべての回答を用意し、試験に臨んだ。
試験が終わり答案用紙を先生が配る時、「このクラスに最高得点98点を取った者がいる。回答は、どれも的確な言葉で端的にまとめられていた。」と前置きがあってから、私の名前が呼ばれた。クラスメイトから「おぉ〜っ」という言葉が飛び、私は「えへへ」と笑いながら席に戻った。誰かが「あの試験、世界史の知識だけじゃなくて文章力も必要だよな」と言っていたのが聞こえた。
私は本当に嬉しかった。勉強は楽しかったし、その結果も良かったのだ。頑張ったことが認められたのがとても嬉しかった。物理で限りなく０点に近い点数をもらっても、そんなのどうでも良かった。
その数日後、担任の先生に用事があり職員室へ行った。すると、その担任の先生の席から程近い席にいる、世界史の先生のところに、あの試験で最低点を取った二人が絞られて立っていた。私は、担任の先生が席をはずしていたので、その場で立って待っていたのだ。世界史の先生は私の存在に気付いてはいないようだった。
世界史の先生は二人に、「前もって問題がわかってるんだから、少しくらいやる気を見せろ」などと説教をしていていた。そしてその後、先生は信じられない言葉を発した。「あれはおそらく兄さんか姉さんに答えを書いてもらったんだろうが、98点取った人間もいるんだぞ」と言ったのだ。私は心臓が高鳴った。“私の事だ。私が一生懸命自分で勉強して得た誇りある98点のことだ・・。”目の前が真っ白になり、私はいたたまれなくなり職員室を出て行った。
先生は、私の98点に対して思っていた本音を本当にさらっと何気なく口にしていた。私はしばらく教室で固まっていた。すると二人が帰ってきて、「あのじじい、お前の98点にケチつけてたぜ」と言った。高校生の私の心に、大きな傷が出来た瞬間だった。
あれから数年、姉と姪がスイスへ向けて出国するのに、母と二人で成田空港へ送っていった時のこと。待合室には、姪と同じようなハーフちゃん達がたくさんいて、その中に一人とっても可愛い女の子がいた。私は母に「見てみて、あの子。すっごく可愛い。めりちゃんより可愛い」と興奮しながら言ったのだ。
数分後搭乗案内のアナウンスが入り、いつものようにチュウをして別れをしようとした。だが、姪は、母にはチュウをしたが、私がチュウをしようとしたらプイっと横を向いてしまったのだ。その時は「あら、ご機嫌斜め。チュウちょうだい♪」ともう一度催促したが、結局姪はチュウどころか笑顔を見せないまま、行ってしまったのだ。何でだ？？
しばらくして私はやっと気付いた。
それまで姪を可愛い可愛いと言っていたのに、別れ間際になって、彼女に聞こえる声で、姪より可愛い、と見知らぬ女の子を褒めちぎっていたこと。その無神経な私の言葉が、4歳の女の子の気持ちを傷つけてしまったのだ。私にチュウをしたくなかった4歳の姪の気持ちがあとになって痛いほどよくわかった。
何気なく発した言葉だからこそ言われた方は傷つく。
だが、言った方はそんなことなど全く気付かず、言ったことさえ覚えていないことも少なくない。
発してしまった言葉は、決して取り消せない。
あとでどんな言葉で取り繕ったとしても、上書きできるものではない。
言葉の暴力は心を痛める。もう痛みを感じたくないし、与えたくない。
大きくなった姪が、あの日のことを忘れていますようにと祈る毎日だ。
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Posted by late_bloomer at 16:28│
Comments(12)│
エッセイ
タカコです、こんにちわ。
私も勉強が好きじゃなくて、そのおかげで夏休みなのに補習をうけたりしているんだけどｗｗ友達と二人で頑張って補習用の宿題を終わらせたんです♪
終わったあと抜け殻みたいになっちゃったけど頑張りました。
それをもし先生が見て、お前の力でやったものじゃないだろうって言われたらきっとものすごいショックだと思います。
そして言葉は、本当に人を揺らしますよね☆
姪っ子さんはきっと、悔しかっただけですよ♪
また遊びに来まーす！
タカコちゃんへ
宿題か・・なんだかとっても懐かしい響き。。
学生時代って勉強があまり面白くなかったけど、社会人になってから逆に勉強したいことが出てきたりして。本当にやりたいことを勉強すればいいからかな。。宿題終わっておめでとう☆
げげっ…！
そんなひどい教師、いるんだ…。
例え、心で思っていても（いや、それだけでも教師としてどうかと思うが）、他の生徒にそれを言うなんて、「はずみ」じゃ済まないでしょ。
子どもについてはさ〜、親なんかだと、みんな「あー、あんなこと言わなきゃよかった」「しまったぁああ」みたいな経験、あるって言うじゃない？
もし姪っ子ちゃんが、そのことを覚えてたとしても、長い付き合いをしていくうちに、いろんな要素が絡み合って、「自分のことをカワイイと思ってくれてる心に間違いはないんだ」ってことがわかってくると思うけど。
こんにちは。
ついはずみで、ついなんとなく、軽い気持で・・・。
言った本人は覚えていなかったりするのですよね・・・。
いつも忘れちゃうのですが、
何か話すときは、相手のことを考えて話さないといけないですよね。
そして一呼吸おいて話すくらいがちょうど良いのですよね。きっと。
ゆみちゃんへ
穏やかでいい先生だとそれまで思ってただけに、裏切られた気がしてショックだったな・・。卒業して数年後、その先生と親しくしていた同級生から、先生が亡くなったからお通夜に行かないか？って言われたんだけど、どーしても行かれなかった。。
そうか、姪っ子ちゃんは、大丈夫だよね。
私と同じで執念深いからちょっと心配で・・。
happy_horseさんへ
ほんとにそうですね。。
私は興奮しちゃうとすぐ言葉に出しちゃうので、そういう時こそ、一呼吸、
これを忘れずにいたいと思います。
yukikoさんの文章、読みやすくて好きですよ。私も、98点に同感。陰ながら応援してます。
ツカサネット新聞の記事読みました。http://www.222.co.jp/netnews/read_article.aspx?csn=1&asn=188
おお〜また新たなる発見。
そうなんだよね〜
知らずに傷つけてる・・・ほんとに言葉には気をつけたいものです。
しかし、世界史の先生の話、あまりにもひどいな〜。
生徒本人がやったと信じられないのなら、最初からそんな疑心暗鬼になるような問題出すなってね。
立派なモラハラだわ。どうせ、ちゃんと出来ないに決まってると決めつけて問題を出してますね。その時点ですでに相手を見下している。
そして、自分が予想してたのよりも出来が良かったから気に入らないので、いちゃもんつけてる。さらにちゃんと出来ない生徒に対しては、待ってましたとばかりに怒ってる。
どうしても相手を卑下しなきゃ気が済まないのね。
奥さんかわいそ〜。
mikeneko_homesさんへ
応援ありがとうございます☆
新聞記事まで読んでいただいてありがとうございます。
こちらでは今まで書いてこなかった時事ネタを中心に書いていこうと思っています。が、過去にここで書いたものも掲載されるかチャレンジしたいので、あ、読んだことある！って記事も出てきます・・。（掲載された場合）
ナナっち♪へ
そうか、これもモラハラなんだ！
モラハラを受けた人の気持ちが、ほんのちょっとわかった気がしました。
ほんとにあの98点は嬉しかったのになぁ。
しかもみんなの前で褒められたでしょ、あれさえなければ逆にそんなに傷つかなかったかも。でも、やっぱりみんなの前で褒められた方がいっか☆
yukikoさんのブログは本当にハッと気付かされることが沢山あります。
会社勤めをしてしばらくすると、部下の数も増えてきます。
最近、私が極力心がけている事は、
�仝斥佞鯣�する前にゆっくりと心の中で１０数えること。
�▲瓠璽襪諒峪�はすぐに送信せずに、時間をおいてから自分の書いたものを読み返して、自分自身がそれをもらって不快に思わないかどうかを確認してから送信すること。
この二つです。
口から出てしまった言葉も、送信してしまったメールも、取り返しがつかないので、極力、売り言葉に買い言葉的なやりとりにならないよう、頑張っています。
でも・・・直情型の私には、すごい忍耐力を要します・・・この性格を直せれば良いんですけどね・・・
裕子さんへ
さすが裕子さん☆
私も直情型なので、そこのところがすごくストレスになっていました。
特に電話のやりとりでは熱くなってしまって・・。
�，六笋郎�のところ3秒くらい。私も10数えられるように頑張ろう!!
ちなみに、年々直情型の正確が顕著になってきて、自分で自分が怖い。。
こんばんわ。言葉の意味・・・はっ、としましたね。今でこそ考えて物を言うようにしていますが、先生になりたての頃は世界史の先生ほど無神経ではないにせよ、言葉で傷つけてしまった事もあります。
当時の先生にも傷ついたことを伝えられれば良かったね。
きっとその先生は大いに反省したと思うから。
けんとさんへ
こんばんは。
そうか、きちんと“伝える”ということも大事なことですよね。
あの先生も反省してくれたのかな？
「どうせ、お姉さんかお兄さんがｘｘｘｘ」という言葉を聞いた瞬間、拒否反応を起こしてしまいました。私の中で“この人とは何かが違う”と思ってしまったのです。そういうとこ今でもあるから、気をつけないととは思っているのですが、なかなか難しいですね。。
でもね、けんとさん、その先生50歳くらいのベテラン先生だったの。。
