私は早食いでたくさん食べる。意外と繊細なので、何かあるとすぐ食欲が減退するのだが、何もない限りは本当にパクパクとよく食べる。だから、男の人も好き嫌いなくたくさん食べる人が好き。なぜなら生命力が強くておおらかで逞しさを感じるからだ。
数年前私は「ねぇ、誰かいい人いない?」と所構わず聞きまわっていたことがある。そんな時、友人のひとりが心当たりがあるといって連絡をくれた。「あなたより3つ年上で、上場企業に勤めてて高収入、背も高くて、スポーツマンなの。日焼けしててなかなかのハンサムよ」と言うじゃないか。“やっぱり縁ってあるもんだなぁ、これが最後のチャンスかもしれない。いや、待てよ?そんな好条件の男がなんで一人?、何か裏があるんじゃないか?”と思い「うっそ。そんな人がどうして今まで独身なの?」とさらっと彼女に聞いてみた。すると「う〜ん、実はバツイチなんだ。子供はいないんだけど・・・。どうする?会ってみる?」
その頃、もう既に私の周りには何人か離婚している友人がいて、彼女達を見る限り、人格的に問題なんか全然なくて、離婚に至ったのは、相性が悪かっただけだと私は思っていた。だから「バツイチ?全然平気。よろしくお願いします」と彼女にお願いすることにした。
そして最初のデートの日がやってきた。
まずはランチから。ホテルのビュッフェへ行くことになった。
私は貧乏根性丸出しで、端から端まで一品でも多く食べて元をとろうとめいっぱい食べた。彼はそんな私を見て「よく食べるねぇ。見てるだけでお腹いっぱいだよ」と言った。よく考えてみると彼は殆ど食べていなかった。
2度目のデートは海へのドライブ。
彼はピカピカのボルボに乗ってやってきた。“いいじゃ〜ん”ところが、信号で止まると彼はさっと車を降りて窓を拭いた。“どこが汚れてるの?”というミクロの汚れを青信号になるまで一生懸命拭いていたのだ。相当綺麗好きらしい。まぁ、物を大事にするのはいい事だ。
そして、海へ着き、私がバック一つで降りようとすると「お弁当は?」と彼は私に聞いたのだ。“手作り弁当のことか?そんな約束してないけど”「ううん、持って来てない」料理が苦手な私には、海→お弁当なんて図式はまったくない。すると彼は「またぁ、うそでしょ、ほんとに?」と言うのだ。嘘をついてどうなる。「ほんとにないです・・。」と言うと彼はちょっと呆れていた。私も呆れた。
3度目のデートは横浜へ行った。
お昼は高級中華料理店に連れて行ってもらった。中華は取り分けて食べるもの。彼があまり頼まないので私も遠慮して、ちょっとだけ食べてお店を後にした。そして夜は、広尾の素敵なお店でお食事だった。こういうお店が好きな女の子は多いだろう。だが、私はお店のお洒落度はあまり気にしない。おいしくてそこそこ量があって、妥当な値段のお店が好きだ。その広尾のお店はとにかく素敵だった。お客さんも素敵な人たちばかり。お料理もおいしかった。が、昼間の中華よりさらに量が少ない。それでも彼は「もうお腹いっぱい」と言った。
4回目のデートは、彼の住んでいる街を案内してもらった。
彼は新興住宅街の分譲マンションを結婚を機に買ったと言う。そのマンションを見て欲しいと言われた。彼はプライドが高い。私はマンションに行っても何もないだろうと思い彼についていった。こじんまりとしたマンションで、男の一人暮らしとは思えないほど綺麗に片付けられていた。食器は一人暮らしとは思えないほどたくさんだ。“そっか、この人はここで新婚生活送ってたんだな。。”
彼は洗濯物を取り込み丁寧にたたみながら、私に「お茶入れてくれないの?」と言った。“初めて来たうちでもお茶って私が入れるのか?”私はきっとそういう顔をしていたのだろう。彼は「いいよ、僕が入れるから」と言い「実はね、今日はマンションの組合に参加したかったんだ。で、君にその間この部屋で待っててもらおうと思ったんだけど、中止になったから。どこか行こうか」と言った。彼は、マンションを見せたかったわけでもなく、私を押し倒そうとしたわけでもなく、自分の予定の一部に私を組み込みたかっただけだったのだ。
私は彼に離婚の理由を聞いた。彼は「結婚する時、お互いそれぞれ自分の時間を大切にしようって話し合ったんだ。最初は良かった。だけど奥さんの方がだんだん一緒にいる時間が欲しいって言い出してね。それで、彼女は会社の人に相談するうちその人を好きになってしまったんだ。寂しかったんだと思う。それに気付いてやれなかった僕が悪いんだ。」と教えてくれた。なんとなくわかったような気がした。
彼は本当に背が高くてハンサムでお金持ちでケチでもなくてスポーツマンだった。だが、ご飯をちっとも食べないし、冬は電気毛布がないと眠れないと言う。そんなのやだ。そして何より、彼が求めていたのは、家庭的で素直に彼に従う子だ。私じゃない。私はいつも意見を言うし話し合いたい。ところが彼と一緒にいると自分の意見が言えなくなってしまう。なんとなくいつも彼は不機嫌そうで、私は彼に心を開けなかった。
最後のデートの時、私は殆ど話すことがなくなってしまった。もともと彼はあまり話をしないので、車の中も食事中も沈黙が続いた。全然盛り上がってない。それを感じていればお互いダメだなと思うはず。だが彼は別れ際「結婚を前提にお付き合いをしてください」と私に言ったのだ。やっぱり私は彼とは理解し合えない、そう思った。
そして私は、「ありがとうございます。でも、私、もっとたくさんご飯を食べる人が好きなんです」と言って彼の申し出を辞退した。彼は一瞬何のことだかわからなかったようだが、しばらく考えた後「わかりました」と言ってあっさり帰って行った。
気持ちをぶつけ合えることと、食事の相性はとても大切だ。気取ったお店で少ししか食べられない人生は私には考えられない。言いたいことを言いながら、高級なお店でたくさん食べられる人生なら大歓迎なんだけど。
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