電話の苦手な私にとって、メールは友人達と繋がりを持てる最強のツールだ。長話をしたい時や、長い間会ってない友人に送る時は、パソコンから。小話や連絡事項、緊急事項は携帯から。と自分なりに使い分けている。いずれにせよ、相手がどんな状況かわからなくとも、メールであれば暇な時に見れるわけで、返信も手が空いた時にくれるはず。だから気兼ねなく安心して送ることができるのだ。
そんな私の携帯に、時々どうしたものかと首をひねってしまうメールが飛び込んでくることがある。迷惑メールなら削除してしまえば済むのだが、知人からの場合はそうもいかない。こんな私でも一応返信しようと努力するからだ。
彼女は古い友人だが、もう随分連絡を取り合うこともなく、たまに共通の友人から近況を聞くくらいで、直接連絡を取るほどの仲ではなくなってしまった。
そんな彼女から、ある日突然時々メールが送られてくるようになったのだが、どう返信していいのかわからず困っているのだ。
久しぶりに来たメールは、ネット上で流れているリアルな惨殺シーンについてだった。「すごいの!ネットで見れるから見てみて!」とURLとともに送ってきた。私にそういう趣味はない。たとえ知らない人であっても、人が殺されるシーンを見るという神経は持ち合わせていないし、ましてやそれを興味本位に友人に見るようすすめることなんて考えつきもしない。むしろ、そんな映像は削除するよう管理者に訴えたいくらいだ。「そんなことやめなよ」と、充分すぎるほど大人になった相手に言う必要はなく、そのメールには意志を持って返信しなかった。
その次に来たメールには、「デザイナーに設計をお願いして、総工費1億円かけて家を新築することになりました!」とだけ書かれていた。そのメールを見た率直な感想は、“すごいじゃん、で?”である。本音で語れる友人であればそう返信するが、彼女はそういう相手ではない。その上、かなりのおしゃべりだったので、どんな話を共通の知人にぶちまけられるかわからない怖さを持つ人だ。わざわざ敵を作る必要もない。小心者の私は「うわぁ、すごいね!」と社交辞令の一つも送ろうと思ったが、どーしてもできず、結局そのメールにも返信しなかった。彼女と私との間に埋められない溝があることを感じた。
返信しないにも関わらず、その後もメールは続いた。
「せっかく新築の家ができてこれからだっていうのに、旦那が海外勤務になりました。駐在先ではお手伝いさんも雇えるし、いい暮らしができるみたいなんだけど、私は日本に住みたいの。この家にいられるのもあと数ヶ月・・。」と報告が来た。“う〜ん、あの時返信しなかったんだけど、そんなことどうでもいいのかな?”と思いつつ「そう、それは残念ね。。でも、駐在なら数年で戻ってこれるでしょ?」と返信しようか悩んだが、やっぱり返信しなかった。
例えどんなに会わなくなった古い友人でも、嬉しいメールのやりとりが出来る相手はたくさんいる。たとえ返信に時間がかかってしまったとしても、必ず返信するものだ。
彼女のメールはいつも一方的で、個人的な話ではあるけれど、聞き手は誰でもいいように思えてしまう。読んでいると虚しくなってしまうのだ。だから、彼女からのメールにはもう返信しないと決めた。たかがメール、そんなに悩んでどうすんの。
そうするうちに彼女からのメールは来なくなった。
ところが段々彼女のことが気になり始めた。“あれ、最近メール来てないな。いつ海外へ出発するんだろう?”なんだよ、こっちから送ってしまいそうだ。
返信しないと、彼女には私のこの心の葛藤は伝わらないだろう。やっぱり一言でも返信した方がいいのだろうか?たかがメール、されどメールだ。おかげで時間が経った今でも彼女からのメールは大切に保存されている。
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