私は20代の頃面食いだった。
すっごいハンサムが好きというわけでもなかったが、友達に紹介して「格好いい!」と言われるタイプが好きだった。格好良くて寒い時は上着を貸してくれる、そんな男が好きだったのだ。
一度本物のハンサムとお付き合いしたことがある。彼は日本人とアメリカ人のハーフで、トム・クルーズとジョージ・クルーニーを足して2で割ったような顔だった。背は高く、なんとも言えない色の瞳をしていて、歯は完璧に並び真っ白だ。私は人ごみで待ち合わせする時、いつも優越感に浸ることが出来た。実際、彼を何人もの女の子が振り返って見る。時には「見てみて!」と女の子同士彼を指差す子までいた。あぁ、幸せ。。
だが、当然そんな彼の周りには女の子が群がる。
ある日、彼がごく普通に私に言った。「今日はエミちゃんと美術館に行ってくる」私は「それってデートじゃないの?」と当然聞く。すると彼は「ただ絵を見るだけだよ、デートじゃない。心配しないで」と言って、出かけてしまう。釈然としない。だが、私は彼のルックスと甘い言葉に操られ、しばらく葛藤する日々を送り続けた。やがて、だんだん私の顔は醜くなっていった。そしてそのうち別れがやってきた。そんな疲れる恋愛、本物なんかじゃない、と今ならわかるんだけど。
私は彼と別れた事を、ある友達に涙ながらに報告した。
彼女は美人で色が白く、とても綺麗な肌をしていて、いつも素敵な洋服を上手に着こなすような女性だ。でも、彼女が選ぶ男性はいつもどちらかというと見た目で人を惹きつけるタイプではなく、はっきり言うと不細工ぞろい。(お話しすると皆素敵な人であったことを付け加えておく)
私は常々疑問に思っていた。並んで歩いていてもなんだか似合ってないし、彼のどこがいいんだろうか、と。
そして彼女は私にはっきり言ったのだ。
「私はね、自分より目立つ男は嫌なの。私が主役でいたいわ。どうせ見られるなら彼氏ではなく、私を見て欲しいのよ。」
へ〜、人の考え方ってほんといろいろあるもんだ。目からウロコ。私は今までそんな発想を持ったことが一度も無かった。なぜなら私は、彼がいつも主役でいてもらいたいからだ。だが、彼女のように自分が主役で、彼が誠実な男性だったらそれはそれで幸せだろう。
「でもさ、結婚して子供が生まれたら可愛い子がいいじゃない?」とちょっと意地悪な質問をしてみた。すると「不細工な子供が生まれてきたら彼のせい。自分のせいにされるよりよっぽどましよ」と明確なご回答をいただいた。
そんな彼女とは、疎遠になってしまったが、今年、彼女と彼女にそっくりな可愛い女の子が写っている年賀状が届いた。
主役は二人になっていた。
その写真の中のどこを探しても、旦那様の姿はなかった。
旦那さんが幸せであることを願って止まない。